集合論3 有限集合と無限集合
これまでの話から分かることは、集合とは元全体により定まるということです。そしてこのことをベースに様々な定義がされていきます。
集合を考えたとき、その中に何個の元があるのか、という疑問が湧いてくると思います。
例えば、自然数全体の集合は無限に多くの元を持ちますが、3つの文字$a,b,c$の集まりは3つしか元を持ちません。集合の大きさ(大きさという言葉は定義してないため定かではないが、ここでは元の個数のことで、多い方が集合が大きいという意味で使うことにする)を比べるためにも元の個数に関心が集まります。
そこで、元の数に関しての定義をしましょう。
定義 有限集合、無限集合
元の個数が0またはある自然数で表される集合を有限集合という.有限集合でない集合を無限集合という.
例えば、2以上10以下の素数全体の集合は、2,3,5,7という4つの元からなる有限集合であり、整数全体の集合は無限集合です。
有限集合の場合は、単に元の個数を比べることで他の集合と比べることができるだろうし、個数によって分類もできる。
では、無限集合の場合はどうだろうか。元の個数は無限に多いのであるから他の無限集合と比べたり、分類したりできるでしょうか。
こういったことから、無限集合の元の個数(のようなもの)を‘濃度’という概念によって定義した。
濃度については、今後出てくることになります。
有限集合には、元の個数が1つの場合も含まれるが、1つの‘もの’aとaだけからなる‘集合’Aは異なるものであるということに注意が必要です。
理由を説明するためには、今の集合の定義では無理なので、公理によって集合をしっかりと定義しなければなりません。
集合論2 集合の例と元
どういった集まりが集合となるのか、いくつか例を見ていきましょう。
・自然数全体の集まり,
・y \le xという不等式を満たす平面上の点(x,y)全体の集まり,
・3つの文字a,b,cの集まり.
などです。
ここで自然数全体の集まり(集合)が出てきましたが、以後、自然数に0は含まないとします。
さて、集合を構成する‘もの’をその集合の元(または要素、元素)といいます。集合Aの元がaであるときaはAに属するといい、{a \in AあるいはA \ni a}と書きます。またaが集合Aに属さないときa \notin Aと書きます。
集合とは定義の通り、どんな‘もの’をとってきても、その‘もの’が集まりの中にあるかないかがはっきりと定まっているようなもののことでした。したがって、集合Aとあるものaとを考えたとき、a \in Aかa \notin Aのどちらか一方のみが必ず成り立つことに注意してください。
集合論1 集合の定義
集合は数学の基礎となるもので、集合の上に色々な構造を積み重ねて理論が形成されます。だいぶ抽象的なので飲み込むまでに時間がかかるかもしれませんが、ゆっくりじっくりと読んで欲しいと思います。副読本としていくつか集合論の本を手元に置いておくといいと思います。また、この記事の使用テキストは、松坂和夫さんの「集合・位相入門」(1968)です。
まずは集合の定義からです。定義にはアンダーラインを引いておきます。
集合とは,‘もの’の集まりであり,どんな‘もの’をとってきても,その‘もの’が集まりの中にあるかないかがはっきりと定まっているようなもののことである.
最後の、「もののこと」の「もの」は「‘’」がついていないので、注意してください。
どういうことかというと、例えば、十分に大きい自然数の集まりを考えると、自然数100が‘十分に大きい’自然数かどうかは人や場合によって変わることがあるでしょう。また、大きな自然数といえばメルセンヌ素数が有名です。2019年11月現在で一番大きいメルセンヌ素数は、2018年12月に発見された51番目もので2^{82589933}-1です。これは、十進数で表したときの桁数は2486万2048桁だそうです。
これは‘十分に大きい’自然数といえるでしょうか。われわれからすればこの数は大きすぎるが、じつはこれよりもっと大きな意味のある数が存在し、グラハム数というものがあります。この数は、数学の証明に使われた最も大きな数としてギネスブックに登録されました。この数は大きすぎて指数で表すことは事実上不可能であるため違った表記法が用いられます。ここではその話はしませんが、気になる人は調べてみてください。
言いたかったことは、われわれが大きな数と認識しているメルセンヌ素数よりも遥かに大きな数があるということで、メルセンヌ素数が‘十分に大きい’と認識する人としない人がいそうだ、ということです。
こういったことがあるため、十分に大きい自然数の集まりは集合とはみなしません。
ではどういった集まりが集合になるのかは次回説明します。
~おまけ~
先ほどした集合の定義は、実は数学的には不完全です。その説明をするのはやめておきます。気になる人は「公理的集合論」をキーワードに調べてみてください。
高校数学と大学数学の大きな違い 前編
高校数学と大学数学の大きな違い
中学校や高校で数学を学び「前は好きだったのに面白くなくなった」と感じ、大学では物理や化学系に進んで、数学以外を学んでいるという方も多いのではないのでしょうか。
結論から言うと、それは非常にもったいないです。数学が好きだからこそ大学で数学を学ぶべきなのです。なぜなら、高校の数学と大学の数学は全く違うからです。おそらく高校までは問題を解くのが中心で嫌になったのではないでしょうか。その点も踏まえて高校(までの)数学と大学数学の違いを紹介します。今大学生の方や高校生の方の1つの選択肢としてこの記事を役立つとうれしいです。
(1)時代
高校までで学ぶ数学は、大体1000~2000ほど前に確立された数学がほとんどです。新しいものでは、高校数学のメインである微分積分学ですが、これは1600年代にニュートンらにより確立されました。平面図形の定理であるチェバの定理や複素数のドモアブルの定理でも1700年代です。美術でいうと、ピカソやゴッホを知らずに壁画ばかりしているようなものです。
それに比べて大学数学は、極端にいうと数学が発見(?)されてから今現在までを扱います。数学は現在でもどんどん発展してきています。最先端になんて追いつけません。
(2)目的
高校では主に受験をパスするための数学ですね。だから問題を解くことが中心になっています。これで嫌いになった方も多いのではないでしょうか。大学では、主に論理です。問題を解くときもありますが、それは自分の理解を確かめるためで、基礎的な問題を解くことが大切になってきます。基本的な学び方は、後述しますが教科書を1行1行じっくりと読み込むことです。
(3)教科書
高校では、文部科学省の認定教科書です。何度も見直されているので誤植等はありません。大学では、国内外の大学の教員が書いたものが一般に使用されています。誤植等はよくあるので教科書を鵜呑みにせず自分で考えることが必要になってきます。しかし、結果として数学の学びはそれが効果的だったりします。また、数学の各々の分野で名著と呼ばれるものがあります。さらっとでもいいので、触れておくことをお勧めします。
(4)学び方
高校ではとにかく解きまくることです。大学では、基本的に教科書を1行1行じっくりなめるように読むことです。1行に1時間、1日かかることは当たり前です。そこを楽しめるかどうかです。目標としては、(人のよって違うとは思いますが)自分で何も見ずにその内容について授業ができることです。これは、暗記とは違い、徹底的に学習すれば、数学の定義、定理、証明、補題など、すべての繋がりが分かるということです。詳しい学び方は、「ゼミの仕方」等で調べてみてください。
長くなったのでとりあえず前編はこれで終わりです。